───犯人の残したメモ(携帯の掲示板への書き込み)は驚くほど稚拙で気が滅入るが、見過ごせない記述もある。例えば派遣先の社員食堂で、派遣社員は正社員の3割増しの料金を取られるという。ひどい話だが、実は日本の会計制度や税制はそうなっているのだ。企業にとって派遣元というのは、仕入れ先であって、派遣されてくる人間は取引先の人間なのだ。そうした人間に、原価割れした値段で社食の食事を出したら損した部分は「福利厚生費」ではなく「交際費」になってしまう。税法上もそうだし、商法上もダラダラ交際費として出していたら背任になりかねない。露骨に「コストダウンのために派遣に切り替えた」というだけでなく、法制度がそうした差別を後押ししているのだ。少なくとも「共に働く仲間」への処遇ではない。しかも支払い能力は派遣社員の方が正社員より格段に劣るのだ。
───人員整理を企業側から通告されて不安になり、結果的に自分は契約延長になったものの、そのリストラ問題が精神を不安定にしたというが、派遣先が人員整理を通告するのは契約先の派遣元であって、本人に対しては派遣元が説明するのが筋だし、不安があるなら相談に乗るのも派遣元の会社の責任だろう。派遣先が自分たちで直接リストラの通告を行うというのは、人事権を行使している、つまり直接雇用の関係があると言われてもおかしくないのではないだろうか? そのくせ事件に対して「派遣元の会社に対して一層の管理を求める」という声明を出しているというのは理不尽ではないのか。
───自分の作業着が消えているのを解雇されたと誤解して感情的になったというような報道があるが、もしかしたら本当に誰かがイタズラしたということならば、契約解除の対象になった人間が、継続になった犯人に対して悪さをしたという方が自然ではないだろうか? 仮にそうだとして、にもかかわらず自分が解雇されるというような被害妄想に至ったのは、本人の特質というよりも、派遣先が派遣社員を「切る」ということのやり方、特に伝え方に、どうしようもない無神経さがあったということが考えられる。
───そもそも、労働三権「団結権、団体交渉権、団体行動権」というのは、人類が多くの悲惨な流血の結果獲得した天賦人権の一種のはずだ。その行使は、決して社会主義ではなく、資本主義の枠内、自由競争経済の枠内での一方の立場である労働者の誇りを保証し、使用者の暴走を抑制する社会インフラとして機能しなくてはならないはずだ。それがこうした派遣労働の現場では全く機能しないというのは異常だ。この犯人は労働三権など知らなかったのではないだろうか。
───労働者の権利主張は既得権に守られた労働貴族を生む、生産性も損ない結果的に全体が負けていくことになる、まして労働者中心の政権を作れば激しいまでの言論統制と独裁に陥るのがオチだ……20世紀の歴史はそうしたエピソードを残した。だからといって、一方的に雇用者の論理が大手を振って歩き回るのでは社会は安定しない。例えばヨーロッパに見られるような、労働三権を血肉化しつつ活力ある産業社会が(多くの問題はあるにせよ)維持されている現実をよく見るべきではないか? 少なくとも、日本、アメリカ、中国で現在行われていることは人類の歴史の上ではたいへんに異常な事態なのではないか?
”- [JMM]「アメリカから見たアキハバラ」from 911/USAレポート/冷泉 彰彦 (via rajendra) (via hanemimi) (via yuco) (via pdl2h) (via kml) (via petapeta) (via petapeta) (via ipodstyle) (via yaruo)