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- 書評 「かぜの科学」 - shorebird 進化心理学中心の書評など (via gtokio)
本書を読めばわかるが,実は風邪のことは現在でもなおよくわかっていないことが多いようだ.一般的にもあまり理解されていないように思われる.私も本書を読んでまさに啓蒙されることが多かった.
- 風邪の病原体としては多様なウィルスが関与している.最も多いのはライノウィルス*1を 含むピコルナウィルスで,そのほかにアデノウィルス,コロナウィルス,パラインフルエンザウィルス,インフルエンザウィルス(なお本書の記述の大半はイン フルエンザ以外の風邪についてのものになっている) などがある.だから生涯に何度でも風邪をひくし,1シーズンにも何度でもひく.
- 感染経路はなおその詳細についてよくわかっていない.おそらく普通の風邪については飛沫感染は少なく,接触感染が多いらしい.感染者が(鼻水*2が 付着した指で)触った何か(ドアのノブ,エレベーターのスイッチ,テレビのリモコン,スーパーのカートの取っ手,現金など)を触った指先から,鼻,目を経 由して感染する経路が大半だと思われる.(だから適切に手を洗うこととともに,手で顔を触らないこと(特に鼻をこすったり目をこすったりしない)は最強の 予防手段になるが,これは非常に難しい)
- 通常最初の症状は喉のいがらっぽさだが,ここが最初のウィルス感染場所ではない.鼻や眼から感染したウィルスが喉に移り最初の炎症を起こす結果だ.
- 風邪の症状はウィルスが生産する毒物によるのではなく,免疫反応の1つ(サイトカイン放出)から生じる炎症反応による.(これは一般的に はあまり認識されていないだろう.なおダーウィニアン医学的に言うと,この炎症反応が結局風邪の治癒に役立っているのか,あまり役立っておらず病原体の伝 染のために操作されているのかが,症状を抑えた方がよいかどうかのポイントになる.残念ながら本書ではそこは扱われていない.*3)
- 同じウィルスに暴露して風邪の症状が出るかどうかには個人差があり,感染しても無症状という場合もある.これには遺伝的要素が大きいようだ.なお環境的要素としては睡眠不足,ストレスがある.
- 寒さが風邪のかかりやすさに影響を与えるという証拠はない.(これは「酷寒に耐えた後濡れた靴下をはいたまま一晩過ごす」というかなり過酷な実験を行った結果によるものだ.*4)
- 風邪に効く薬が開発されないのは,ウィルスが多様で標的を絞りにくいことと,どうせ3,4日で治るものなので(1)よほど素速く効くもので(2)副作用が極めて小さいものでないと商品価値が出ず,開発が難しいことが理由だ.
- 書評 「かぜの科学」 - shorebird 進化心理学中心の書評など (via gtokio)